「君に友だちはいらない」という本があります。「必要なのは友だちではなくて仲間」というのがコンセプトで、主にチームづくりのノウハウなどが書いてあります。「なあなあ」の関係ではなく「目的達成」を目指して協力し合える関係が理想だと著者は説きます。
著者の瀧本哲史氏は京都大学産官学連携本部特任准教授/エンジェル投資家/作家として活躍されていましたが、2019年に47歳という若さで亡くなりました。しかし、瀧本氏の著作はその後も参考になる部分が多く、特に人間哲学という点で面白い指摘が多いです。
「君に友だちはいらない」という書名は、氏が人付き合いに消極的だったからだけでなく、「社交に過度な時間と労力を注ぐことは、時間の無駄となるどころか、ときにはマイナスにもなる。強力な磁石が、鋼鉄もくず鉄も区別せずに引き寄せてしまうように、人脈の多さを自慢する人は、つきあって有意義な人だけでなく、自分の足を引っ張ったり、迷惑をもたらす人や、さらには反社会的な勢力とまでもつながってしまうことがあるのだ。(同書、pp.117-118)」というシビアな理由があったりします。また、高校同窓生などの非公式なグループの重要性や、本業とは関係ないネットワークに入ることが本業の仕事に役立つことがあるなどとも書いてあります。
「夢を語り合うだけの「友だち」は、あなたにはいらない。あなたに今必要なのは、ともに試練を乗り越え、ひとつの目的に向かって突き進んでいく「仲間」だ。SNSで絡んだり、「いいね!」するだけの「友だち」はいらない。必要なのは、同じ目標の下で、苦楽をともにする「戦友」だ。友だちも仲間も他人から「配られる」ものではなく、自分自身の生き方を追求することで、自然にできあがっていくのだ。だから究極的に必要なのは、他人から与えられたフィクションを楽しむだけの人生を歩むのではなく、自分自身が主人公となって世の中を動かしていく「脚本」を描くことなのだ。(同書、p.322)」と檄を飛ばす著者は、冒険を進める上でどんな仲間が必要か、4タイプに分けて説明しています。「①魔法使い(勇者にとっての「メンター」や「支援者」アドバイザー的な存在である。(同書、p.269))」「②エルフ(頭の回転が速く、客観的に物事が分析できて、「ちょっと待って。冷静に考えてみよう」というのが口癖のような人物になる。(同書、p.270))」「③ドワーフ(現実のチームにおけるドワーフ的なポジションは、企業でいえば「優秀な営業責任者」のような存在だ。リーダーに対してエルフの冷めた視点とは反対に、熱狂的な忠誠心を持ち、チームの持つビジョンの実現に向けて力強く行動していく。傷ついた仲間を癒し、チームを俯瞰的に把握して、組織の秩序を自らが率先してつくり上げる。(同書、p.272))」「④トリックスター(チームにおけるトリックスターの役割も、「既存の秩序」にとらわれず、ときにはそれを壊して新たな気づきをチームにもたらし、外部の「自分たちと異なるもの」とつながりを作ることにある。トリックスターはふだんは必要不可欠な存在ではない。ときとしてトラブルを巻き起こし、チームに迷惑をかけることもある。だがその予想もつかない振る舞いが、チームの誰もが成し得ない「非連続の変化」をもたらし、圧倒的な力を持つ協力者とつながったり、強大な敵を倒す契機となることがあるのだ。(同書、p.273))」の4タイプです。それぞれのタイプの人間の顔が思い浮かぶ組織は強いこと、一人の人間が一つの役割を果たすというより、状況に応じて柔軟に役割を変えられる方が望ましいとも指摘されています。こうした多様なチームは「ある特定の「目的」のためにチームがあるのだから、その目的の到達度がひとつの判断基準になる。目的が達成されたら、基本的にチームは解散だ。(同書、p.271)」とあるように、目的を通じて互いの足りない能力を補い合うような関係が理想的だと言えます。弊社の場合は、「技術と人間の潜在能力を最大限発揮すること」が企業理念であり、その目的達成のために組織として存在するので、目的を達成したときは各プロジェクトごとに各チームメンバーが最大限パフォーマンスを発揮する、目的ごとに集合・離散するような柔軟な体制で臨んでいます。チームメンバーに要求する基準として、目的へのコミットと成果、倫理が重要であると書かれています。
また、日本の採用フローは多くの学生を説明会に読んでから、何度も面接などでスクリーニングする方法なのに対し、Googleでは、一流大学の研究室の教授から優秀な学生とのディスカッションの機会を依頼し、「天才的な才能を持つ学生に目星をつけ、世界中から「青田買い」をしていった。(同書、p.258)」独特な「研究室の狙い撃ち」の方法に言及し、、採用のうまさが成長の鍵とします。
新しいプロジェクトの人選については、「チームのメンバーを選ぶにあたっては、「まず最初に小さな関わりから、その人物の必要性が立証された人」だけを選別することが大切だ。大きな仕事をいきなりやらせてみるのではなく、事前のテストとして小さなミッションを課してみて、その達成のプロセスを見るのである。ダメなチーム(ありがちなチーム)では役職や年次で選抜されるが、よいチームはあくまで「何ができるのか」でメンバーが決まる。ところがこれまでに試みたことがないプロジェクトなのだから、その仕事に必要とされるスキルもはっきりとは分からない。だから何かしらのスキルがあるからといって、その人がメンバーにふさわしいとは言えないのである。(同書、p.108)」としています。弊社でも、新たに仕事をお願いする方には、事前に小さなプロジェクトを自主制作としてご依頼し、その際の達成度や進め方の様子から、その後の協力関係では、どのような方針とするかを検討することがあります。
こういったノウハウを積み重ねていくと、「本書のテーマである「仲間づくり(チームアプローチ)」を、私がよく使うべつな言葉で表現するならば、それは「今いる場で、秘密結社をつくれ」ということになる。(同書、p.81)」という秘密結社づくりができます。
ベンチャー企業というものは、本質的に歴史がないわけで、側から見ていると、まるで「フリーメイソン」のような、「闇の組織」や「陰謀論の黒幕」のように見えてしまう怪しさが感じられることがあります。実はそれこそが組織が「秘密結社」たる所以なのです。