本記事は跡見順子先生(東京農工大学客員教授)の新刊「ほどよいストレスが人を若くする」の書評です。
跡見研究室には、「細胞のアニメーション制作」や「日本学術会議シンポジウムの動画編集」などで、当社(合同会社エスクリップ)も色々とお世話になっているので、「新刊もぜひ紹介してほしい」とのご要望にお応えする形で本をご紹介する運びとなりました。
著者プロフィール
跡見先生は今まで運動・健康・細胞について研究されてきました。
お茶の水女子大学で保健体育を学ばれた後、東京大学大学院でエアロビク研究を基に教育学博士を取得、以降東京大学で研究され続け、2013年は現職である東京農工大学客員教授になりました。
現在も研究・教育に携われながら、健康・長寿に貢献する体操などの普及にも力を注がれています。
本の概要
「ほどよいストレスが人を若くする」は、今まで研究論文や学会発表などのアカデミック・専門家などに向けた発表を行ってきた著者が、一般の方に向けたわかりやすい文章で研究で得られた知見などを説明されています。
「あとみ式健康長寿体操」などの実践的アプローチを紹介しつつも、「ハウツー」にとどまらず、科学者として「どのように(健康になるのか)」だけでなく「なぜ(健康になるのか)」といった視点を大切にされる姿勢が特徴的です。
一般的な健康に関する本は「◯◯(特定の食べ物や運動)は健康に良い」といったノウハウなどが紹介されていますが、こちらの本では「人間とは何か」「生物とは何か」といったより根源的な思考に基づいて生命や健康に対する考え方を深めるきっかけを生み出すようなヒントが散りばめられています。
興味深いのは、日本の伝統的な所作などを取り入れることが、からだを生き生きとさせるのではないかといった日常生活との関連も語られていることです。
「科学」というと遠い世界の物事のように捉えられてしまいがちですが、著者は「一般の方にとっても科学的に物事を考えることは人生をより良く生きる上で重要なのだ」というメッセージも伝わってくる内容です。
批評
「研究者」や「専門家」という言葉は、「何かを突き詰めて考える」というイメージが強く、「頭でっかち」や「理屈ばかり言う」といったニュアンスが伴われることもあります。
しかし、本書には「あたま」だけではなく「こころ」と「からだ」も大事であり、自分の身体を理解することは自分を理解することにもつながるという当たり前の事実に気づかせてくれる力があります。
産業が高度に発展することで、知識や論理ばかりが重要視されてしまいがちな現代において、身体科学の専門家が社会に向けて「からだの重要性をわかりやすく発信すること」自体に意義があると考えられます。
また、「ロダンの考える人」に対して、「そんな姿勢で考えても良い発想は生まれない!もっと身体を動かして考えるのだ!」というメッセージや、「あたま」や「こころ」だけで考えて迷宮や袋小路に迷いこんでしまったときは、「からだを動かすことで悩みをずらしてみる」といった、一般の方だけでなく、研究者や専門家の方が悩んだ時にも役立つような気持ちを切り替えるアドバイスも充実しています。
感想
本のタイトルにある「ほどよい」という言葉のチョイスが絶妙だと思われました。
「運動」という言葉からは、バリバリと鍛えるボディビルダーのトレーニングや激しいスポーツ競技の先入観が強く、体育が苦手だったり、体を動かすことあんまり好きではないといった方にとって抵抗を感じてしまうことがあります。
「ほどよい」の意図として、無理のない範囲で、「柔軟体操」「ストレッチ」などのマイルドな動きから始め、日常生活でも身体の動きを意識してみると、徐々に健康に近づいていくのではないかといった方針があります。
普段から運動をされない方でも取り掛かりやすい方法を提案しているため、「あたま」「こころ」「からだ」をリフレッシュさせる気分転換としても多くの方にとって有益な本になるのではないかと感じました。健康や運動に興味のある方はご一読をおすすめします。